【忘れられた人と時と艦】: From上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

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 『三橋貴明の「新」経世済民新聞』

     2019/5/31

      【忘れられた人と時と艦】

        From上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

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令和初の国賓として来日したトランプ米大統領は、帰国前の28日、海上自衛隊の横須賀基地を訪れ、停泊中の
いずも型護衛艦「かが」を視察しました。

この視察は日本側が提案したもので、米大統領が海自艦艇に乗艦するのは初めてです。

同日付の産経ニュースはこう伝えました。

〈28日午前10時半、かがの飛行甲板に米大統領専用ヘリ「マリーンワン」が着艦した。
先に到着していた首相がトランプ氏に歩み寄って握手を交わすと、両首脳は並んで艦上を歩いた。

海自護衛艦隊司令官や呉地方総監を歴任した池田徳宏元海将は「日米の首脳が『かが』に並び立つ姿ほど中国にとってやっかいな画(え)はないはずだ」と語る。〉

海上自衛隊と米海軍の隊員約500人を前に安倍首相は、「日米同盟は私とトランプ氏の下でこれまでになく強固なものとなった。

この艦上にわれわれが並んで立っていることがその証しだ」と述べ、トランプ大統領も、日本が米国から最新鋭ステルス戦闘機F35を105機導入することや、「かが」の空母化改修に触れ、「米国の安全保障をも向上させるもので、首相の尽力に感謝したい」と語り、日米同盟の結束を国内外に強く印象づけました。

実は、米国時間の27日は、祖国のため命を捧げた米兵を顕彰する「戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)」でした。

トランプ大統領は「かが」視察のあと、米海軍横須賀基地に停泊中の強襲揚陸艦「ワスプ」に移動し、艦上で行った演説で「第7艦隊はインド太平洋地域全体の現状を維持し平和を守っている」と米将兵を讃えましたが、「メモリアル・デー」が念頭にあったことでしょう。

米国のメモリアル・デーは、連邦政府によって5月の最終月曜日と定められていて、それが今年は27日だったわけですが、我が国にとっての5月27日の意味を知る日本人は今日どれほどいるでしょうか。

時は114年前の明治38(1905)年といえば、もうお判りの方は多いでしょうが…。

〈英国人はけっしてトラファルガルを忘れはしない。

それはいまから百五十一年前に、ネルソン提督が仏西の連合軍を撃破してイギリスの海上覇権を確立した海戦である(一八〇五年十月二十一日)。

その日をトラファルガル・デーと称し、本国においてはもちろん、海外各地にあっても、英国人の集まるところでは、かならずディナー・パーティーを催し、まず女王陛下のために乾杯し、ついで任国の元首の健康を祈り、最後にネルソン提督に感謝の杯をあげて歓談に入ることを行事としている。〉

伊藤正徳がこう書いたのは昭和31(1956)年でした(『大海軍を想う』)。

伊藤はその前年の10月21日、東京・虎ノ門の英国人倶楽部に70名ほどが礼装で集合し、トラファルガル・ディナーを催したことに触れ、使用人の一日本人が、〈その会の次第を見まもっているうちに、なんら教養のない身分ではあるが、なんとなくイギリス民族の偉さというようなものを感じ――理由はわからないが、そう感じ――、

 

自分たちにすれば東郷大将だなと思いましたが、東郷の名は十年一回も耳にしたこともなく、まして日本海海戦がいつであったかなぞは忘れてしまって、日本人として恥ずかしい情をもよおした〉ことを引いて、こう嘆きました。

〈イギリスにネルソンの名を知らない児童は一人もいない。いまの日本に、東郷の名を知っている児童は、百人の中に何人いるだろうか。〉

それから60年以上経った今日、「東郷大将」を知る児童・生徒はさらに少ないでしょう。

試みに文科省検定済教科書/高等学校 地理歴史科用『詳説 日本史B』(山川出版社、2017年発行)の《日露戦争》の項目を開くと、そこに東郷平八郎の名はなく、他の教科書、参考書も同様です。

少なくとも中高校の教育においては、「皇国の興廃」を賭した日露戦争で日本海海戦の勝利をもたらした東郷平八郎は、我が国の歴史上記憶されるべき必須の人物とは見なされていない。

ちなみに、大東亜戦争の敗戦までこの日は「海軍記念日」とされていました。

さて、ネルソン提督の乗艦は「ヴィクトリー号」でした。

我が聯合艦隊司令長官東郷平八郎の乗艦は、今日横須賀に記念艦として保存されている「三笠」です。

二つの艦はともに祖国の大殊勲艦ですが、大東亜戦争後の日本人はその三笠をどのように放っておいたか。

以下、伊藤正徳の前掲書から――。

〈ワシントン条約で戦艦の保有量が決まったとき、日本は、念のために一万五千トンの戦艦「三笠」を制限外に認めてほしいと提議したとき、英米の専門委員は一言の下に、「もちろんだ、それは日本国民の不可侵権の一部だ」と即座に快諾し、国際条約の一項として保全が認められたのであった。

条約上の権利をになって、東郷の旗艦「三笠」は、永久に――鋼鉄艦でもあるから――国民に接するための姿をととのえた。

いかに戦争に負けたとはいえ、戦後のその廃頽ぶりは悲惨そのものであった。

東郷平八郎の部屋は、カッフェー・トウゴーとなった。
口紅あかく眥(まなじり)あおき半裸の商女が、怪しいハイ・ボールを酔客にひさいでいた。
作戦室には麻雀の四卓が、深更まで牌の騒音を流していた。

士官室はダンスホールとなって、明治三十八年五月二十七日に、そこで敵の十二インチ砲弾が炸裂し、六十余名の勇士が死傷した苦戦の思い出は、タンゴとかタップとかの靴の音にかき消されていた。

この有り様を見て悲しみの眼をおおうたのは、日本人ではなくて、英国の貿易商ジョージ・ルービン君であった。それを聞いて私は、日本人の恥を知った。

ルービン君は、「三笠」が英国で造られているとき、出入りの時計商として「三笠」の回航員と親しくなり、「三笠」に愛着を持つようになった。

その軍艦の写真を応接間に掲げていたが、第二次大戦中には、人目をはばかって自分の寝室に移し、ひそかに艦と友人とを偲んでいた。

昭和三十年秋、君は商用があって、七十五歳の老躯も若々しく、日本の土を踏んだ。

はじめて日本へ来て、第一に赴いたのは、奈良、京都ではなく、「三笠」のつないである横須賀であった。

ルービン君は、そこで「三笠」を見て日本のさかんなりし往時を偲び、東郷の霊に語り、国破れたりといえども、「三笠」の精神あるかぎり、ふたたび往時の栄誉を復する日のあらんことを祈ろうとした。
何ぞはからん、見たものは船体汚れ、橋檣破れたる「三笠」であり、語ろうとすれば、粉黛なまめかしい商女のほかには人影もない。
ルービン君すなわち憤然、踵を蹴って帰り、ただちに一書を日本タイムス紙に寄せて、日本人の愛国心に質疑して曰く、「日本人は『三笠』の現状を知っているのだろうか。
おそらく知らないのであろう。
知っていれば、あの国辱的荒廃を放っておけるはずはないと思うからだ。
一九〇〇年、『三笠』の回航員であった人々の中で存命中の方があれば、至急連絡を願う。
私はこれについて語らねばならない」と。幸いにして、二、三の存命者が現われて憂国の物語をともにした。

ルービン君は、その人々の「三笠」保全の約束をよろこび、ある金額を寄進して、ひょうひょうとして故国に去っていった。

ネルソン、トラファルガー、ヴィクトリー。

東郷、日本海、「三笠」。
五月二十七日の海戦に、つねに先頭に立って被弾三十七個を算した「三笠」。
それは日本の「連合艦隊」のただ一つの残存する旗艦でもある。

日本の独立を防衛した、人と時と艦とを、人々はもう少し記憶してよかろう。〉

このルービン氏の行動が契機となり、「三笠」は曲折を経て今日の姿をとどめています。

ルービン氏の行動なかりせばどうなっていたか…。

英国のヴィクトリー号はといえば、〈トラファルガル海戦が、イギリス人の不滅の記憶であるのと併行して、英政府はヴィクトリー号を永久に保全することを志し、それをポーツマス軍港につないで、国民の参観に供すること〉が維持され、2012年8月からは第一海軍卿の旗艦として英海軍の光輝を担っています。

彼我の違いは、ただ先の大戦の勝者と敗者の戦後というだけにとどまらないでしょう。

日本人は何を置き忘れてきたのかを問い続けるものです。
5月27日に限りません。

民族の記憶が希薄化していくことは、私たちが何者であるかを忘れていくことです。

いかに日米両首脳が、新鋭の護衛艦の艦上に並び立っても、私はそこに、「守るべき本質」を見失った我が国の空疎を見出してしまうのです。

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