大東亜戦争 石原莞爾 NO.1
大東亜戦争 石原莞爾 NO.1
しかしながら彼の生涯などをいろいろ見ていくと石原莞爾という男はむしろ大東亜戦争に反対した徹底した平和主義者であったことがわかる。
満州国を建国したのも決して中国への侵略を目的としたものではなかった。
そこに五族共栄(日、満、漢、朝鮮、モンゴル族)の独立国を作ることによりソ連の防波堤にしようとしただけである。
日露戦争後のポーツマス条約により日本は北満州からのソ連の影響を排除することには失敗した。
石原は満州国という独立国をそこに作ることによりソ連との緩衝地帯を作りたかったのである。
彼としては日露戦争後に日本がやり残した国防の一部を自らの手でやりたかったのであろう。
現在の日本の教科書では「石原らの謀略により満州事変が起こり、満州国が建国された」という感じで石原の業績がむしろマイナスのイメージで語られることが多いが、これを一つのプロジェクトと考えると彼が行ったことはまことにすごい、と言わざるを得ない。
何せ一つの国をほとんど彼の主導で作ってしまったのであるから!
(現代のわれわれは家一軒建てるだけでもきゅうきゅうとしているのにね)
石原という男は組織の一員として働くことには向かなかったのであろうが、プロジェクトリーダーとしては類稀なる資質を持っていたのである。
私は石原が満州国を建国したこと自体は歴史上、誤りではなかったと思っている。
明治から昭和にかけての人たちのロシア(ソ連)への恐怖は現在の北朝鮮の脅威よりもはるかに大きかった。
それを取り除くために行ったはずの日露戦争にしても結局はあれだけの血を流しながら、世界情勢とのからみからロシアの勢力を満州全体から追い出すまでには至らなかった。
したがってどうしても満州のあの地に緩衝地帯(ロシアからの防波堤)を作りたい、という思いは当時の日本人の共通したものであったと思う。
本当は日露戦争後、日本が取得した満鉄を買収しにきた米国人の鉄道王ハリマンにさっさと満州なんか売っぱらってしまったらよかったのだ。
そうすれば満州の防衛は必然的に米国が担当したであろうし、賠償金代わりの多額の資金が日本の手に入ったであろう。
それにソ連の脅威よりは米国の傘に入っていた方がはるかにましであったろう。
井上馨ら元老はそう考えてハリマンと交渉していたが、小村寿太郎はそれでは日露戦争の英霊にすまない、といってハリマンの提案を拒否した。
それがまた日米関係悪化の原因の一つであったことは否めない)
さらに経済の面から考えても、当時の日本としては満州国は必要であった。
昭和の初期当時は日本への原料供給地として、あるいは輸出製品の市場として満州は不可欠であった。
(”満蒙は日本の生命線”と言った松岡洋右の言葉はあながちうそではないのである)
当時は第一次大戦後で世界経済はブロック化し、世界貿易が縮小していたために、後発国で植民地の少なかった日本は世界市場から締め出されていた。
したがって欧米列強の手が届いていない海外市場の確保が至上命題であったのである。
もしハリマンが満鉄を買収し、満州が米国の支配下となっていれば平和裡での貿易という形になっていたであろうが、如何せん小村がそれを拒否してしまったために満州は”無主の地”のままであった。
(当時満州は軍閥の手にあり、まだ中国政府の主権がおよんでいない。
また歴史的にも満州の地を漢民族が支配していたことはない。
したがって現在のように満州を中国領土の一部として考えると当時の日本の立場は理解できない。)
したがって石原がこの地に満州国を建てたのはある意味で歴史の必然であったと言ってよかろう。
日本は満州国と対等な関係で自由貿易を営むことにより必要な資源などを確保し、輸出市場なども確保できたはずだからである。
しかしながら如何せん、やり方がまずかった。
さらに五族協栄で政治を行うはずが日本の官僚がいいポストを独占してしまった。
後者は石原のせいではないにしても建国するのに謀略を使ったのはなんとしてもまずかったものである。
(だから”満州事変”などと後年呼ばれるようになり、後の日華事変と同列に扱われるようになってしまった。
この両事変はその性格がまったく異なるものであるにも関わらず)
無論当時の情勢としてはああしたやり方しかなかったのかもしれないが、結局彼の取った強引な謀略を彼の後輩(武藤章ら)がまねをして日華事変を引き起こした。
(石原の後任の作戦課長となった武藤章が石原に「私はあなたのまねをしただけですよ」と言い、さすがの石原も何も言えなかったのは有名な話)
石原自体は中国を侵略していくつもりはまったくなく、無主の地である満州に五族共栄のソ連防波堤政権ができれば国防面からも経済面からもよい、と考えていたわけであるが、関東軍全体としては石原がいとも簡単に
満州を取ってしまったのでもっと組織だってやれば中国全体をその支配下に治めるのもそう困難ではないだろう、と少し色気を出しすぎたのである。
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