「ヴェノナ暗号解読文書」-原爆開発は筒抜けだった
「ヴェノナ暗号解読文書」-原爆開発は筒抜けだった
更に重大だったのは、ソ連に通じていた「原爆スパイ」たちである。
「マンハッタン計画」の内部からは二人の物理学者クラウス・フックスとセオドア・ホール、及び技術者のデビット・グリーングラスが、ソ連に多くの重要な機密の技術情報を伝えた。
それは、通常のウランから高濃縮ウランを抽出するための複雑な過程、生産施設の技術的な図面、爆弾技術の工学的原理などである。
この爆弾技術によれば、早期にプルトニウムを用いた原子爆弾の製造が可能になり、そもそもプルトニウムは高濃縮ウランよりも精製がはるかに容易なのであった。
彼らがアメリカの原爆の秘密をソ連に漏らしたことで、ソ連は何年も早く、極めて低いコストで核兵器を開発することが出来た。
ヨシフ・スターリンは、スパイ活動によってソ連がいち早くアメリカの核兵器独占を破ったことから、初期冷戦でのアメリカとの対決において大変大胆な外交戦略がとれるようになったのである。
もしソ連が1949年に核実験を成功させていなければ、あえて危険な冒険をしないスターリンが、
1950年に北朝鮮に多くの軍事手段を与えて韓国に侵攻するのにゴーサインを出したとは考えにくい。
もし、ソ連に原爆がなければ、トルーマン大統領が「原爆使用」の脅かしによって北朝鮮の侵略を阻止しようとすることを、スターリンは恐れたはずだ。
なんといっても、トルーマンは原爆開発が完了してすぐ、原爆を持たない日本との戦争を終えるために、躊躇なく二回も原爆を使用したのである。
しかし、1950年にはスターリンが原爆を持っていたため、トルーマンは朝鮮半島で核兵器を使うわけにはいかなくなった。
最初は準備不足だった米軍が朝鮮半島の南端まで追い詰められ、海に追い落とされようとした50年の夏の終わりであっても、共産中国軍が莫大な兵力で参戦したその年の冬であっても、トルーマンは一度として原爆を使おうとしなかった。
もし、ソ連が自らの核保有によってアメリカの核の脅威を相殺することができるようになっていなかったら、スターリンは戦争に踏み切ることはしなかっただろうから、朝鮮戦争での両側の数十万もの軍人や民間人の死傷は避けられたであろう。
ソ連が早期に原爆を所有したことは、重大な心理的効果をもたらした。
1949年にソ連が核実験を行ったとき、アメリカの国家指導者も一般アメリカ人も、あの残酷な独裁者ヨシフ・スターリンが、意のままに都市を爆撃する力を手に入れたことを理解した。
この認識が、冷戦の行方に大きな影響を与えた。
その後も、冷戦が文明を破壊するような戦争になるという可能性は常にあった。
確かに、1953年のスターリンの死は米ソ緊張をかなり和らげたが、もしソ連のスパイ行為がこれほど成功していなかったら、ソ連の原爆完成はスターリンの死後になったかもしれず、そうすれば米ソの冷戦はずっと恐怖の少ない道筋をたどったであろう。
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