【天皇の島から 戦後70年・序章(4)後半】 目にされた焼け野原「何もない。原宿の駅に」 戦没者ご慰霊への“原体験”

天皇の島から 戦後70年・序章(4)後半】

目にされた焼け野原「何もない。原宿の駅に」 戦没者ご慰霊への“原体験”

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天皇陛下が栃木・奥日光で疎開されていたかつての「南間ホテル」の部屋。 益子町に移築後、しばらくホテルとして営業をし、現在一般に未公開の「平成館」となっている=平成26年12月16日、栃木県益子町益子(栗橋隆悦撮影)

 

 天皇陛下が昭和19年7月から疎開されていた栃木・日光にも、20年に入ると空襲の警報が響き始めた。

ほどなく「疎開とは言わず、『夏季錬成だ』と言われて奥日光に行くことになった」。

陛下と学習院初等科の同学年で最後まで疎開をともにした明石元紹(もとつぐ)さん(80)は振り返る。

標高約650メートルの日光から約1500メートルの奥日光へ、いくつもの急カーブが連なる「いろは坂」も越えてたどり着いた先が、硫黄のにおいが立ち込める湯元温泉だった。

日光では授業以外は約4500平方メートルの田母沢(たもざわ)御用邸で起居したが、奥日光では同級生らが暮らす南間(なんま)ホテル本館と同じ敷地の別館に入られた。

「次の天皇」を守り抜くためとはいえ、施設を選んではいられない状況だった。

2階建ての別館は現在、栃木県益子町内に移築保存されている。

手すりに擬宝珠(ぎぼし)がついた急な階段を上がり、2階の7室のうち左手奥が8畳、10畳、5畳の3間からなる奥の間。隣室に側近らが控え、陛下はここを居室兼勉強部屋、1階の部屋を寝室とされた。

付近には防空壕(ごう)が新設された。

級友と授業を受けつつ、敷地内の畑を耕し、戦場ケ原や金精峠(こんせいとうげ)などで野草や山菜を採られた。

食糧は慢性的に不足していた。

「陛下も、国民と同じようなひもじい思いをされた」と明石さんは言う。

 

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学習院御用掛としてお世話をした陸軍中佐、高杉善治さん(53年死去)は奥日光で「緊張した一瞬」があったと、著書「若竹のごとく 戦争と皇太子さま」(読売新聞社刊)に書き残している。

それは、大本営の陸軍中将が初等科生に戦況を説明し、質問を受けた時のこと。

最後に「何かご質問はありませんか」と問われた陛下は尋ねられたという。

「なぜ、日本は特攻隊戦法をとらなければならないの」

若い隊員たちの百パーセントの死を意味する体当たり攻撃は、19年から始まっていた。

その是非への疑問は、「ノドまで出かかるが、みなぐっとのみこんで胸の中におさめ」(同書)ざるを得ない空気にあった。

級友には「覚えがない」と話す人もおり真偽は定かではないが、ご下問があったとすれば、当時において強い衝撃だったであろう。

護衛で従っていた近衛師団の儀仗隊(ぎじょうたい)にも、敵接近への緊張感が満ち満ちていた。

米軍が上陸すれば、陛下の身柄を奪いにくる恐れがあった。

万一の際に逃げ延びる時間を稼ぐため、ホテルそばの「湯ノ湖」の水を下手の戦場ケ原へと氾濫させる計画が立てられ、南間さんは「祖父の栄(さかえ)は儀仗隊の指揮の下、爆弾設置の訓練を繰り返した」と明かす。

同級生を“影武者”とし、陛下を駕籠(かご)などでお連れして、峠を越える手はずだったという。

 

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書き初めの決意」

緊張のなかに身を置いていた陛下はようやく11月7日、東京へ戻られる。

原宿駅の皇室専用ホームに降りた瞬間を、57年の誕生日会見で振り返られた。

「まず、びっくりしたのは何もないということですね。建物が全然ない。

原宿の駅に。周りに何もなかった。これが一番印象に残っています」

疎開中、昭和天皇からの20年9月9日付の手紙には次のように書かれていたといわれる。

「戦争をつゞければ 三種神器を守ることも出来ず 国民をも殺さなければならなくなつたので 涙をのんで 国民の種をのこすべくつとめたのである」

原宿駅に一緒に降りた明石さんが「東京中が見渡せそうなほどの焼け野原は、ある意味で玉音放送より強い戦争のご体験なのではないか」と話すように、父の決断の意味を実感された光景だったのだろうか。

翌21年正月の書き初めで、同級生とともにこう書き上げられた。

「平和國家建設」

陛下はこの言葉を実践するかのようにその後、国内各地、さらには海外で、戦没者慰霊の旅を重ねられることになる。

(今村義丈)

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